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東京高等裁判所 平成8年(ネ)4954号 判決

控訴人 X

右訴訟代理人弁護士 木村一郎

被控訴人 株式会社東京三菱銀行

右代表者代表取締役 A

右訴訟代理人弁護士 小野孝男

同 庄司克也

主文

一  原判決を取り消す。

二  別紙預金目録〈省略〉の各預金債権が控訴人に帰属することを確認する。

三  訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求める裁判

一  控訴人

主文と同旨

二  被控訴人

控訴棄却

第二事案の概要

本件事案の概要は、原判決書二枚目表一一行目から同裏三行目までを次のとおり改めるほかは、原判決の事実及び理由中の「第二 事案の概要」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

「2 譲渡禁止特約の効力

(被控訴人)

Bと被控訴人間の別紙預金目録〈省略〉の各預金(以下「本件預金」という。)債権に関する預金取引契約には、預金の譲渡を禁止する旨の特約がある。

(控訴人)

控訴人は、後記3のとおり、Bの相続人全員に対し、控訴人が本件契約により本件預金債権を譲り受けたことを理由に、本件預金の預金名義を控訴人の名義に変更する手続を求める訴えを提起し、その請求を認容する確定判決を得て、本件預金債権の帰属者を明らかにしている。被控訴人銀行は、本件預金債権の受寄者であって、本件預金債権の帰属者が明らかになることのほかに、誰が帰属主体になるかについては固有の利益がなく、被控訴人銀行において、本件のような場合にまで譲渡禁止の特約があることを主張して控訴人の権利を否定することは、信義則に反するというべきである。

3 本件預金債権の譲渡についての対抗要件の具備

(控訴人)

控訴人は、Bの相続人全員に対し、控訴人が本件預金債権を取得したことを理由に本件預金債権の預金名義を控訴人の名義に変更する手続を求める訴えを提起し、その請求を認容する確定判決(B1、B2、B3、B4、B5、B6、B7、B8、B9、B10、B11及びB12につき東京地方裁判所平成七年(ワ)第一八六三〇号事件、B13、B14、B15、B16及びB17につき横浜地方裁判所平成九年(ワ)第一三四三号事件)を得て、被控訴人に対し、平成九年七月一七日到達の書面をもって右確定判決の存在及び内容を告知した。

(被控訴人)

被控訴人主張の事実は認める。ただし、戸籍上、Bの相続人として、他にB18の長男及びB19の二女の記載がある。」

第三争点に対する判断

一  本件死因贈与契約の成立について

〈証拠省略〉及び弁論の全趣旨によれば、控訴人は、その妻Cの母DがBと親戚関係にあるということから、Bと交際があったこと、Bは、その兄弟姉妹が既に死亡し、その子らとも交際がなく、昭和三七年に夫Eが死亡した後は、一人暮らしの生活をしていたが、平成二年一月、介護が必要となって前記a病院に入院したこと、Dは、Bの入院後Bを度々見舞っていたが、同年一一月、Bから依頼されて、Cや控訴人らと共に山梨県所在のBの夫Eの墓参りをしたこと、Bは、自己が死亡した後は、親交のあったDの娘Cやその夫である控訴人にその供養ないし財産を託す趣旨で、平成三年一〇月九日、入院先の右a病院内の病室で、控訴人との間において、Bが有する全財産を控訴人に死因贈与する旨の契約(本件契約、甲第一号証)を締結したことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

したがって、控訴人は、Bの死亡(平成六年七月一七日)により、本件契約に基づき本件預金債権を譲り受けたことが認められる。

二  譲渡禁止特約の効力について

1  Bと被控訴人間の本件預金債権に関する預金取引契約に預金の譲渡を禁止する旨の特約があることについては、控訴人において明らかに争わないのでこれを自白したものとみなす。

2  控訴人がBから本件契約に基づき本件預金債権を譲り受けたことは前記一認定のとおりであるところ、控訴人は、後記三のとおり、Bの相続人全員に対し、控訴人が本件契約に基づき本件預金債権を譲り受けたことを理由に本件預金債権の預金名義を控訴人の名義に変更する手続を求める訴えを提起し、その請求を認容する確定判決を得ており、控訴人とBの相続人全員との間において、控訴人が本件契約に基づき本件預金債権を譲り受けたことについて争いがなく、Bの相続人全員から被控訴人に対して本件預金債権につき譲渡の通知がされていることが認められ、また、弁論の全趣旨によれば、本件預金債権について控訴人のほかにこれが自己に帰属することを主張する者はいないことが認められる。

右の諸事情によれば、控訴人とBの相続人全員との間において、本件預金債権が控訴人に帰属することに争いがなく、その趣旨の確定判決もあって、Bの相続人全員から被控訴人(債務者)に対して本件預金債権につき譲渡の通知がされており、本件預金債権の帰属主体が控訴人であることは明白であるということができる。

そして、被控訴人銀行は、本件預金の受寄者であって、本件預金債権の帰属主体が誰であるかが明白かどうかについては利害関係を有するものの、本件預金債権の帰属主体が誰であるかそのものについては被控訴人銀行が固有の利害関係を有するものではないことも明らかである。

このように本件預金債権の帰属主体が控訴人があることが明白であり、その帰属主体が誰であるかについては利害関係がないのに、受託銀行である被控訴人銀行において、本件預金債権につき譲渡を禁止する特約があることを理由に控訴人が本件契約に基づき本件預金債権を譲り受けたことを否認することは、信義則上許されないものと解するのが相当である。

三  被控訴人に対する対抗要件の具備について

控訴人が、Bの相続人であるB1、B2、B3、B4、B5、B6、B7、B9、B10、B11、B12、B13、B14、B15、B16及びB17に対し、控訴人が本件契約に基づき本件預金債権を譲り受けたことを理由に、本件預金債権の預金名義を控訴人の名義に変更する手続を求める訴えを提起し、その請求を認容する確定判決を得て、被控訴人に対し、平成九年七月一七日到達の書面をもって右確定判決の存在及び内容を告知したことは当事者間に争いがない。

被控訴人は、Bの相続人として、戸籍上、他にB18の長男及びB19の二女があるとの記載がある旨主張するが、証拠(甲第一四号証)及び弁論の全趣旨によれば、戸籍上、Bの父であるB18に長男(Bの兄)がいたことが認められるが、B18の除籍は既に廃棄済みであり、右長男の名も明らかではないところ、B18の死亡により同人の二男であるFが明治三五年一月四日戸主となって家督を相続したことが認められ、右認定事実及び弁論の全趣旨によれば、B18の長男は、右明治三五年一月四日前に子なくして死亡したことを推認することができる。また、戸籍上、Bの母であるB1の子であるB19(Bの妹)に長女B2及び三女B14の記載があることから、二女がいたことが認められるが、右認定事実及び甲第一八号証によれば、同女は改製原戸籍に記載がないため、その名も明らかではなく、同女は、幼少のころ(昭和一二年ころ以前)に子なくして死亡したものと推認されるところ、右各認定を覆すに足りる証拠はない。したがって、Bの死亡前に死亡したB18の長男及びB19の二女は、Bの相続人ないし代襲相続人ではなく、その代襲相続人もいないものと認められ、他にBの相続人があることを窺わせる証拠はないから、控訴人が前記確定判決を得た相手方をもってBの相続人の全員であると認めることができる。

そして、右の確定判決は、本件預金債権の預金名義を控訴人の名義に変更する手続をせよというものであって、本件預金債権の債務者(被控訴人)に対して本件契約に基づく本件預金債権の譲渡を通知すべきことを命ずる判決ということができるから、右判決の確定により右通知を発したものとみなされ(民事執行法一七三条一項)、前記のとおり控訴人が被控訴人に対して平成九年七月一七日到達の書面をもって右確定判決の存在及び内容を告知したことにより、Bが本件預金債権を控訴人に譲渡したことの通知が債務者(被控訴人)に到達したということができるから、これにより控訴人は、本件契約に基づく本件預金債権の譲受けについて、債務者(被控訴人)に対して対抗要件を具備するに至ったものということができる。

四  そうすると、控訴人は、被控訴人に対し、Bとの間の本件契約に基づいて本件預金債権を譲り受けてこれを取得したことを主張することができるというべきであるから、本件預金債権が控訴人に帰属することの確認を求める本訴請求は理由があり、これを認容すべきであって、これを棄却した原判決は失当として取消しを免れない。

よって、原判決を取り消した上、控訴人の本訴請求を認容することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小川英明 裁判官 下田文男 長秀之)

〈以下省略〉

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